HIT THE ROAD
Hallelujah
※ 重大なミスが発覚しました m(_ _)m文末にて説明があります。mig
『重かったぞ、と』
セブンスヘブンの一階で眠ってしまったマリンを寝室に運ぼうとして抱きかかえた時、ティファはその言葉を思い出した。レノ……あれは私の事だったのだろうか。教会で倒れていた私とクラウドを、ルードと二人でここまでどうやって運んできたんだろう。合体剣をガチャガチャ背負ったクラウドをレノが選んで運ぶとは思えない。やっぱり私の事か……。
「デンゼル、起きてる?開けてくれる?」
両手がふさがっていたので子供部屋の前でティファが呼びかけた。デンゼルがドアを開けた。
「マリン、どうしたの?」
「うん、クラウドに用があったみたいなんだけど、待ちくたびれちゃったみたい」
マリンをベッドに下そうとして、思わず「よいしょ」と声が出てしまった。
「なんだか重たくなったわマリン。どんどん大人になっちゃうのね。」
「クラウド、帰ってこないの?」
デンゼルは少し心配そうにティファの顔を見た
「メールあったよ。あと1時間で帰るって」
かわいそうなデンゼル。誰かが居なくなることを極度に恐れている。ごめんね、デンゼル。みんな一緒だよ。マリンもクラウドも私も、血のつながった人はもう居ないの。
「デンゼル、頭なでさせて」
「やだよ」
「お願い」
病気が治ってから、最近デンゼルは子ども扱いされるのを嫌う。でもティファが自分の頭を撫でたい気持ちは二種類あるのを理解している。
「怖いの?ティファ」見透かしたように言う。
「うん」
ティファの手がデンゼルのくせ毛を撫でる。しばらくして、デンゼルは言った。
「だいじょうぶだよ、ティファ」
「ただいま」
クラウドが帰ってきたとき、店にティファは居なかった。二階にあがり自室の明かりをつけたクラウドは自分のベッドにデンゼルが寝ていることに気が付いた
「おい、何かあったのか?ティファは?」
「俺のベッドで寝てる」
「どうして」
「クラウドが帰ってこないから」
「メールした」
「そうじゃないよ」
「どうしたんだ」
「眠いよクラウド」
デンゼルの様子が少しも緊迫していないので、クラウドはそれ以上問い詰めるのをやめた。
「風呂、入ってくる」
寝息を立てているデンゼルはもう何も答えなかった。
クラウドは子供部屋をそっと開けてティファとマリンが寝ていることを確認した。子供たちを寝かしつけるうちにティファも寝てしまったんだろう。階下に降りようとするクラウドの後ろでドアが開く音がした。
「クラウド」
マリンが部屋から出てクラウドを呼び止めた。
「起こしちゃったか」
「クラウド待ってたの。下で、いい?」
やけに大人びた口調がティファに似てきたようにクラウドは感じた。店に下りるとマリンが切り出した。
「レノが」
予想もしない名前にクラウドの眉がぴくっと上がった。黙ってしまうマリン。何か言いにくいことなのだろう。
「レノってタークスのか?」
クラウドの優しい声に安心して、思い切ったようにマリンが話し出した。ティファ達を起こさないように小さい声で。
「レノが、デンゼルに言ったの『実行犯は俺だ。ティファを恨むなよ』って」
七番街プレートの落下事故の件だとクラウドはすぐにわかった。アバランチというテロ組織のアジトをつぶすために神羅がタークスをつかって七番街ごとプレートを落下させた事件。表向きはアバランチの爆破テロで首謀は俺たちということになっている。デンゼルの両親はその事故で亡くなっている。
「デンゼルは、誰も恨んでいませんって。ティファもクラウドも父ちゃんも。それに全部知ってるって。レノがやったってことは初めて聞いたけど、レノの事も恨みませんって」
そうか。もう知っていたんだな。いつか話さなければと思いながらも、先延ばしにしていた事だった。
「ティファは何て?」
「ティファは居なかった。店の外で、だれか知らない大人がデンゼルに何か言ってて。たぶん酷い事。よくわからなかった。そこにレノが来て――――――ねえ、クラウド」
「うん?」
「デンゼルは言うなって言ったんだ……けど……クラウドには言わなくちゃいけない気が……して……わたしもあの時の事……」
マリンの心がいろいろ葛藤しているのがクラウドにはよくわかった。クラウドはしゃがみこんでマリンの頭を撫でた。
「マリン、ありがとう。あの時はマリンはまだ三歳だったな。怖い思いをたくさんして思い出せないこともあるだろう。今度みんなで話そう。だから、もうだいじょうぶ」
「うん」
マリンの表情が子供らしい笑顔になり、嬉しそうにうなずいた。
「家族だもんね」
「ああ」
おやすみ、とマリンが二階に上がっていくのを見届けたあと、クラウドは、風呂に入った。シャワーを浴びるクラウドの頭は疲弊していて多くの事は考えられなかった。
デンゼル、がんばったな。
マリン、大人になった。
ティファ、よく眠れているか。
ああ、そうだ
レノ、あいつも苦しんだのか……
しょっちゅう来てるのか?
仕事なのか?
風呂を出て髪を乾かし、クラウドはティファの部屋に向かった。空いているベッドはティファのベッドだけ、のはずだった。しかしそこにはマリンが寝ていた。
「どうなっているんだ」
マリンは寝ぼけてティファの部屋のベッドにもぐりこんだようだった。
「やれやれ」
仕方なくクラウドは子供部屋のティファの隣のベッドに入るしかなかった。
「妙な夜だな」誰も自分の寝床で寝ていない。
「ティファ」
暗闇の中でクラウドはティファを呼んだ。返事はなかった。返事はなかったが、気配はあった。隣にティファがいる。圧倒的な疲労感のなかでクラウドの身体は動かなかった。そして深く深く沈み込むように眠りに落ちていった。
やがて朝が来た。
「良かった。帰ってきてたんだ」
顔に似合わず豪快な寝相のクラウドの横で、ティファは眠りから覚めた。その気配でクラウドも目を覚ました。
「ねえクラウド、どうなってるの?」
「ん……俺が聞きたいよ。デンゼルは俺の部屋、マリンはティファの部屋だ」
クラウドはまだ眠そうな目でティファをちらりと見てから天井を見上げた。
「思い出すな。アバランチで雑魚寝してた頃」
クラウドの言葉にティファも昔の記憶を思いめぐらせた。
「ベッドも何もなかったけどね」
七番街のプレートの下敷きになった店。アジトの地下室。今は亡き、昔の仲間たち。もう涙は出ない。
クラウドは目を閉じて、独り言のようにつぶやいた。
「なあティファ、こういう部屋割りも、悪くないかな」
ティファはしばらく考えた。すぐにマリンもデンゼルも大きくなり、いつまでも子供部屋で寝てはいないだろう。時が流れるということは素晴らしいことだと、ティファは心から思う。
「……そうだね。悪くないかもね」
そう言うとティファはベッドから降りて、再び眠りに落ちたクラウドを残して子供部屋を出た。
「さてと、朝ごはんにしますかね」
セブンスヘブンの朝食。クラウドが仕事に出るまで、子供たちが学校に行くまで、4人の話は止まらなかった。ティファがクラウドの寝相の事を大げさに言い、クラウドはティファのいびきをからかった。マリンとデンゼルはお互いの寝言の事を言い、みんなが大笑いした。そして、続きは夜に、と約束を交わし、それぞれのささやかな日常が始まった。
―――――――― 終 ――――――――
※ 書き出しのレノのセリフ、ティファはまだ目覚めていなかったので聞いていなかった筈でした。お詫びします。できれば、しつこくレノ&ルードがセブンスヘブンにやってきて、「あの時は重かったな、ルード」「……」とかティファに何回もお礼を言わせようとする場面でも想像して頂けたら、と勝手に思っております。 mig