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overture

 

 「そんなことはない、普段通りだ」

さっきまで苦しそうに座り込んでいたクラウドがスッと立ち上がり、大剣を振り回し雨水を切って背中にそれを収めた。

 「5年ぶりだな」

幼い頃のそれとは違う、不思議な青い輝きの瞳でクラウドはティファを見た。ティファは息を呑んだ。言葉が出ない。

 「どうしたティファ?……じゃあ俺は……」

クラウドは頭を掻いて今にも立ち去りそうなそぶりを見せた。

 「ちょっと待って。ここの雨危険だから、流さないと。私の店近いの。来て、クラウド。」

急にすがるように引き止めるティファの誘いに、断る理由は無かった。心の奥に嬉々とした弾むような小さな感情が沸き、クラウドの混乱した頭が痛んだ。
 「ティファの店」

 「そう、仲間と暮らしてるんだけど……」

 「仲間」

今度は薄暗い感情が沸く.。

 「ニブルヘイムの」

 「……違うよ……クラウド、ニブルヘイムの人に会ったこある?」 

 「……ないな」

また頭痛がした。

 「ティファ……俺は……あれから神羅を辞めて……」

 「クラウド?やっぱり具合悪いんじゃ……」

 「……今は、なんでも屋をやっ……ひとり……で……?」

 「行きましょう」

ティファはクラウドの手を引いた。

 

 雨は上がっていた。

 

 泣きそうな心をティファは必死でこらえていた。

 どうしたらいいかわからない。

 流されるようにここにたどり着いて生きてきた。

 5年前の故郷の事を知る人は居ない。

 やっとクラウドに会えたのに……。

 

 バスルームに入っているはずのクラウドが妙に静かなので、ティファは心配で呼びかけてみた。

 「クラウド、タオルと着替え、置いておくよ。」

クラウドの声が響いた

 「なあ、ティファ。なんでもやるぞ、報酬しだいで。」

 「魔晄炉爆破も?」

 「なんだって?」

 「テロリストなの。私。」

 

 ティファは汚れたクラウドの服を手に取った。そこには誰かの血が暗くじっとりと染み付いていた。

 傷ついてるんだ。

 クラウドも。

 

                        つづく

 

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